知識の詰め込みではなく、創造力や思考力などを伸ばす教室がある。
「ステップ知能開発教室」(仙台市内に2教室)は、1986年の開校以来、ギルフォード理論に基づいた知能教育を実践している。幼児1歳6ヶ月からの幼児教室だが、そのまま中学・高校まで通い続ける生徒も多い。
幼児からステップに通い、頭角を現したある高校生。予備校講師や高校教師が尋ねた。「君の考え方は独特で深いし、良くものを知っている。偏差値も78と高い。どこの塾で学んだんだ?」。彼女は何食わぬ顔で「幼児教室です」と答えた。
「ステップ知能開発教室」代表で、知能コーディネーターの武者まゆみさん
「教えるのは知識やテクニックではない。概念やものの考え方なんです」と話すのは、ステップ代表で知能コーディネーターの武者まゆみさん。武者さんはステップを「幼児の早期教育や学習塾とは異質なもの」と位置づける。
「ステップのやり方は、急には成績は上がらないし、手ぬるいように見えるかもしれません。知識を入れる前に十分の“吐き出し”を行い、勉強に限らず考え方・ものの見方・捉え方をゆっくり見直しながらレッスンを行います。ゆっくりゆっくり、でもある時点からは急激に伸びていきます。いいえ、伸びるのではなく、子ども自身の能力が目覚めるのです」。
武者さんと生徒のグループレッスンの様子。周囲を気にすることなく授業に集中する生徒ら。
アットホームな雰囲気の教室では、複数のレッスンが平行して行われる。自習する子どももいる。壁も仕切りもない教室だが、子どもたちは周囲を気にするそぶりを見せない。
「では問題です。36をつくるかけ算の組み合わせを、かわりばんこに言ってください」。小学3年生2名と武者さんとのグループレッスンが、テンポ良い掛け合いで展開されていく。
「6と6」、「4と9」、「・・・じゃあ9と4」。「先生そういう考え方好きだよ」。「12と3」、「3と12」、・・・。「これを約数って言うんだよ。じゃあ倍数って何だと思う?わざわざ倍数って言っているのだから、何か意味があるんじゃないかな?」。「じゃあ先生、約数はかけ算で、倍数はわり算なんじゃない?」。「あぁそっか。そういう風にも取れるか。じゃあ、そもそもかけ算・わり算って何?から考えてみよう」―。
目先の正誤より、「なぜだろう」という子どもの疑問を大切にし、子どもが積極的に考えたプロセスを重視する。定義を答えるだけでは、武者さんには通用しない。「それはあなたの考え方?最初からひとつの答えを出そうとしなくてもいいんだよ」。「答えを出すことが目的でなく、答えを出すプロセスで、頭をしわくちゃさせることが大切なのよ」。武者さんは、子ども達に優しく、そして力強く話しかける。
「どうして時計は60分で変わるの?」「なぜ〜〜〜の?」。ステップの教室には、子どもたちの「なぜ?」「どうして?」が飛び交う。武者さんは、その質問が好きだ、と言う。「2の3倍は?」と問われ、「の=×(かけ算)」とパターン化して説明する人は多い。「けれどもそこに行くまでには、“なぜそうなるの?”“かけ算って何なの?”を考えなければいけません。どんな教科に対しても、生き方に対しても、疑問に思うことが大切です」。
ギルフォード教育は、子どもの興味や関心を惹きつける遊びや課題を通して、頭の働き(知能)を育てる教育。南カリフォルニア大学名誉教授ギルフォード博士の理論に基づき、知能を構造的にとらえ、知能構造の一つ一つの要素(知能因子)を適切に刺激することで、幅広い知能の育成を目指す。
知能は、遺伝だけでなく、成育する環境によって大きく変わるとされている。そのため、適切な時期に適切な刺激を脳に与えることで、独創的な思いつきや、自ら解決策を見出す力を身につけることが可能だと言う。
ステップでは、知能教材(知能遊び)の開発・研究を独自に行っている。特別な教材は必要ない。「日常生活を意識してみると、多くの知能因子がゴロゴロ転がっているのです。お洗濯物のお手伝いひとつ取り上げてみても、知能遊びのヒントが隠されています」と話す武者さんの知能遊びは、「生活密着型」。普段の生活そのものを、知能遊びに変えてしまう。
例えば、洗濯物をいろいろな規則性でたたんでみる知能遊び。お父さん・お母さん・子ども・お父さん・・・と家族構成順でたたんでみたり、シャツ・ズボン・トレーナーと衣類の種類でたたんでみたり。たたまれた洗濯物を子どもに見せ、どのようにたためばそう見えるのかを再現する知能遊びもできる。
我々大人から見れば、難なく無意識のうちにできる動作。しかし、どこをどう考えどう行動したかを意識し、要素に分解してみると、瞬時に規則性を見抜き、あらゆる方向のチェック機能が働いていたことが想像できる。一見まとまって見える行動や思考も、複数の知能因子が組み合わされた結果。そのため高度な問題解決には、一つ一つの知能因子が鍛えられている必要がある。ステップでは、日常生活の中で刺激因子をもつと思われる行動を体系的に分析し、一つ一つの知能因子を刺激できるよう、家庭でもできる「知能遊び」をアドバイスしている。
小学校低学年までは、母親手づくりの問題を毎日3問出すのがステップの宿題。中2・小3の子どもを一歳6ヶ月から通わせている保護者は、「主人と上の子、私の3人で問題をつくってるんです。ああだこうだ言いながらも、親子のコミュニケーションになっていますね」と笑う。中2の長女と同じ問題を、小3の次女が解く場面も。「上の子はテクニックで解こうとするけど、下の子はシンプルに解く。それで下の子が解けたりするんです(笑)。そういうところがステップのすごいところ。学年関係ないんですね」。
ステップでは、子どもと一緒に授業へ参加する親が多い。中にはメモを取る保護者の姿も。
子どもと一緒に授業へ参加する保護者も多い。中には子どもと同じようにメモを取る姿も。「ご自分達と同じということにこだわらず、お子様本人に持たされた資質を見てあげて、認めてあげてください。思ったことも無い可能性に出会えますよ」。「親が管理しすぎると、例え狭い範囲でも、子ども自身が自分で環境をつくろうとする力が育たない。親はコーディネイターであるべきです」。子どもと一緒に授業を受けることで、子どもの気持ちに気づく保護者も多い。「これまでも、できあがっていく親子関係を見ています」と武者さんは話す。
授業に参加している保護者は、「子育ての悩み、子どもの育て方・接し方など、様々な場面でのアドバイスは有難い。大先生ではありますが、子どもにとっては第二の母のような存在、私は実の母より相談しています」と話している。
同教室では、保護者向けに「子育て・親育ちのサポーターサロン」も開催。誰でも気軽に参加できるスタイルで、ステップ非会員でも参加可能。自身も子育て経験者である武者さんと、コーヒー片手に子育て話ができる。「頭でっかちではない、具体的な子どもとの接し方がわかる。まわりは塾へ通い始めた時期で当初焦りもあったが、今では肩肘張らずに安心して子どもと向き合える。親も育てて頂いている」と保護者にも好評だ。
方法論を覚えるのではなく、自身の感性からものを考える。その姿勢は、ノート作りにも顕れる。
小学3年生の生徒が鞄から取り出した「オンリーノート」。60枚ノートが2つ繋ぎ合わされたオリジナルノートだ。
小学3年生の「オンリーノート」の中身。見出しシールをめくると、図鑑のように各自調べることができる。
「この前の授業では、どうだったっけ?」。小学3年生の生徒が、鞄から分厚いノートを取り出した。60枚ノートが2つ繋ぎ合わされたノートで、表紙には油性ペンで力強く「3年生 算数図かん」と書かれている。「ふくざつな図形の面積」「だいたい時計」「円の公式なんで?」等と書かれた見出しシールが幾重にも重なっており、何度もページをめくった跡がある。
「彼らは、私の捨てようとした説明のウラ紙を“先生!ください”そう言って持ち帰り、ノート作りをしています」。各自が創意工夫でつくるステップの「オンリーノート」。ノートを開けば、色とりどりの文字や図形、ペタペタと張られた色々な形の裏紙。それぞれの学びのプロセスが物語られる。
忘れた部分や、まだ自分のものになっていない部分は、各自が作った「オンリーノート」を取り出し調べる。実際、かなりの根気が要され、はじめから子ども一人でできるはずがないのも事実。「ところが、オンリーノートをしっかり作っている子の力は比類無いものと言っても過言ではないような結果がでているのです。そのためか、最近、ステップではオンリーノートが浸透してきました」と武者さんは頬を緩める。
最近の教材は、重要部分が太線で色分けされているものが主流だ。「けれども大事なのは、自分の感性じゃない。なぜそれが大切だと思うの?文字の大きさも太さも色も同じ中から、自分の感性で大切だと思うところを取ってくる。処理の方法がワンパターンだと、自分の価値観がわからなくなるよ」。
武者さんは、方法論のみの教育に異を唱える。「“覚える”“できる”ことでぐつぐつ頭を煮込むな、とステップの子には言います」。自分の中で煮詰まったときは、少し角度を変えて考えれば良い。「けれども方法論だけを覚える子どもは、それができないのです。間口も奥行きも狭い。それでいて成績が悪いかと言えば、そうでもない。でも、なぜこれが解けないの?となってしまう」。
素材そのものが素敵なんでしょ?その子どもの中で光る素材を活かしましょう、と武者さん。「方法論だけでは駄目。大切なのは、ものの見方、考え方なのです」。
「何かに則って答えを出すほうが楽です。楽そうなものを子どもは選びます。けれども考え方が違うものを併用する子は、結果がでません。思い切って、どちらかひとつにゆだねて下さい。ふたつの方法を抱き合わせる方が、子どもを不安定にさせるのです。ステップの場合、週1回、一時間半のレッスンで十分です。それ以上でもそれ以下でもありません」。
「子どもが初めて父親に頭を下げ、ステップに通わせて欲しいと頼んだのです」。入会間もない小学3年生の母親は、初レッスンからの帰り道の出来事を思い出す。「勉強ってこんなに楽しいんだね。ステップの子になれて、ぼくは幸せ」。嬉しそうに子どもが話した。「初めての授業で武者先生が発したメッセージが、子どもながらに心に染みたようです。同じメッセージを他人が発していても、そうはならなかったでしょう。武者先生の懐の深さ、厚さ、大きな力だと思います」。
体験授業を受けに来ていた保護者は、「教室には、こういう風に育ってくれたら嬉しいな、と思える中高生のお子さんばかり。ここまで育ててくれる先生かと安心しました」と話す。
「こちらも一所懸命向き合うのだから、あなたも向き合いなさい。お金貰ったからって何でもやるわけじゃないのよと、はっきり子どもにも言います」。子どもだからという理由で、世の中にあふれる情報のうち、大切に選ばれた情報だけを与える姿勢に、武者さんは違和感を覚える。「他人の中で活かされている重み、現実の重みをきっちりと伝えたい。きっちりと向き合ってくれれば、月謝以上のことはやります」。
身についた力を最大限に利用して自分の力で「ジャンプ」する前の、「ステップ」として。「ステップは皆様のサポーターであり、踏み台です」。「真の知能=心」を信念に、ステップ知能開発教室は躍進し続ける。
文責:大草芳江
| 学力や知識を使いこなす力(※)が最も必要であると思います。また勉強だけでなくすべてにおいて、助けを待つだけでなく「力を貸して。困っている僕・私はここにいるヨッ!」と自分から声に出す力。声に出せないなら、助けてオーラを出す力も必要だと思います。 |
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