学年という枠を取り払い、子ども一人ひとりの能力に合わせた指導で、高い合格実績を誇る個人塾がある。
難関有名大学合格の文字が並ぶ教室入り口
2歳児から高校生まで幅広く指導を行う学習塾「ソーメック個別学習院」。東京大学医学部、慶応義塾大学医学部、防衛大学医学部。教室入り口に掲げた大学の合格実績を見ると厳しい受験指導を想像するが、そうではない。
教室には、小1の問題を解く小学5年生もいれば、中3の問題を解く小学5年生もいる。しかし生徒たちはまわりを気にすることなく、自学自習スタイルで自分の教材をすらすらと解く。
子どもは本来学ぶことが好きである。そして子どもはそれぞれ違った存在だ。「障害を持っている子でも、歳をとった子でもいい。出来ない子はいません。勉強が嫌いになる理由は、理解できないから。わかればみんな勉強好きですよ。どの子も落ちこぼれにはさせません」と話すのは、代表の湊満子さん。
子ども達が「自分に合った勉強」を活き活きとやれる場が必要だ。「ソーメック個別指導院」は、そんな湊さんの思いをそのまま形にした場である。
単にプリントを配布し、助言するだけでは成立しない、「自分に合った勉強を活き活きとやれる場」の前提条件を探った。
まず「自分に合った勉強」とはどんな勉強法か。
ソーメックの個人別・能力別プログラムは、いわゆる個人授業や能力別クラス編成とは異なる。学年という枠を取り払い、子どものその時の学力に応じた教材で「自学自習」していくスタイルが特徴だ。
棚にずらりと並べられた幼児から高校までの教材
教室の棚にずらりと並べられた幼児から高校までの教材は、スモールステップでプログラム化されている。どこでつまづいているかを割り出し、その少し前の、自分の力でスムーズに解ける教材からはじめるため、「落ちこぼし」がない。湊さんは力説する。「教材が自分に合っているから楽しいのです。皆、活き活きピカピカしていますよ。教育って、活き活きさせることではないんですか」
同じ学年であっても、それぞれがその時点の能力に応じて、小1教材から解く子もいれば、学年を超えて高校教材まで進む子もいる。「小1でいいじゃない。中3でいいじゃない。だってそれぞれ違うんだもの。子どもたちに必要なのは、絶対にこれ」
解けないところがあれば先の教材に進めない。できないところが明確になれば、スムーズに解けるまで十分な練習を行う。「先生、次の教材に行きたい」。意欲がある子は、どんどん先に進ませる。「じゃあ、やってごらん」。しかし学力が伴わなければ、自然に根をあげる。「じゃあもう一回、前の教材やってみる?」「うん、やります」。基礎学力を確実に定着させながら進めていくシステムだ。
ソーメックでは、基礎学力である「読み・書き・計算」を重視。最終的には、高校教材を「パッと見て理解し自学自習できる」基礎学力育成を目指す。それはなぜか。
「日本の教育は、『読み・書き・計算』を見直すべき。基礎のないところに応用は有り得ません。『生きる力』は基礎学力の上に成り立っており、基礎学力なくして『生きる力』はあり得ません」と湊さんは指摘する。
小学生や中学生の頃は成績がトップクラスでも、高校へ進むにつれ授業についていけなくなる子どもは多い。「その原因の多くは、各教科の基盤となる基礎学力、つまり『読み・書き・計算』の知識や技能の不足です。高校の教科書は、『なんとなく理解した』程度では進めることができません。反対に基礎学力がある子どもには、高校授業を楽しむゆとりがあるのです」
例えば、高校数学ができないのは、単に四則演算ができていないことが原因の場合が意外と多い。「因数分解をぱっと見て解ける力をひとつの目標とすれば、方程式を理解している必要があります。そのためには、瞬時に約分できる力がないと解けませんね。四則演算の意味を理解していれば、どれだけのことが習得できるか。逆に、基本からしっかりとやることによって、どの子も伸びるということです」
また読解力がすべての基本になると湊さんは言う。「読解力、つまり文章を読んで理解する力さえあれば、あとは手段を教えるだけで、考える力も育っていきます。高度な計算をする力、学年を超えて進む力です。本が読めない子は、たとえ計算はできても、その後の広がりは望めないでしょう。読解力の深さは、要約力。自分が何を言いたいのか、自分の頭で答えられる要約力が、最終的な国語の力ですね。将来どこへ行っても必要な力です。最終目標ですよ」
高校の教科書に焦点を当てた長期的な指導を行う。「世界一簡単だと言われている日本の義務教育の教科書と、高校のカリキュラムでは、学習量も学習スピードも難易度も大きく異なります。中学受験や高校受験までなら、わたしたちの教え方も変わるでしょう。そこまで高度なことは必要ないですから。けれども根本から理解して自分の力で解いていく、本当の意味での大きな学力を育てたいのです」と湊さんは力強く話す。
ソーメックが考える、本当の学力とは何か。
自学自習で教材を解く。必要ならば助言を求める
教室では、生徒らが黙々と教材を解いている。「先生、自分でやってみたんですけど、これ見てみてください」。生徒は例題から推測し、自力で未習領域へと挑戦する。もちろん、学習状態を見て教えるべきところは丁寧に教える。「けれども単に新しい単元だから教えてください、という受身な姿勢ではないですね。自らの意思があり、旺盛なチャレンジ力を持つ子どもたちを、一人、二人でも育てていくことが目標です」と湊さん。
「今日は何ページですか?」と聞くような勉強法、先生が黒板に書いたものをノートに写すだけの勉強法。受身に教わるだけで先に進んでしまうと、いつの間にか「わかっているつもりなのに、やってみたら少しもできない状態になる」と湊さんは指摘する。「教わる必要がないというのが、本当の学力なんですよ。そこまで行けば、社会で活躍しますよ。そこまで行かなければ、嘘なのです」
自学自習のスタイルは、一見、講師が何も教えていないようにも見える。「教わる勉強が勉強だという意識があるのでしょうね。苦手なところを指導してくれれば得だと思い込んでいる方もいます。けれどもただ苦手なところだけをやると、子どもはもっと苦手になりますよ。勉強が嫌いになる理由は、理解できないから。わかればみんな勉強好きですよ」
自学自習を可能にするひとつの要因に、信頼の置ける教材プログラムがある。「最終教材まできちんと解いた子が、成功しています。学年を超えていった子どもの学力の高さ、勉強のゆとりですね。反対に、教材が進んでいない子が苦労しています。入試問題ばかりやる子は、それ程際立った発展が望めませんね。東大医学部合格も、数学オリンピック出場も、中3で数検2級(高等学校2年レベル)合格者も、自分に合った教材から、やっていった子が結果を出しています」
仙台市内に6教室を展開。「伸びるだけ伸ばそう」と、開室時間中14時〜21時は、好きな教室で好きなだけ勉強できる。「難関大学へ入学した子は皆、家で勉強したことはないと言っています。毎日22時には寝ていたそうですよ。教室に来て、教材や宿題をずっと解いているんです」
自由な校風である。高校生になれば教材も自分で考える。「自学自習力が身につき、楽しみながら学ぶ、人格が円満である、というのが特徴です。皆無理をせず、勉強は詰め込みとかじゃありません。ずっと学び続けていますね。学ぶことが好きなんですね。学び続ける、それが自学自習力です」
湊さんは言う。「親には、自立したことを喜んで欲しい。もちろん、わからないところは丁寧に教えるんですよ。皆教えるのが好きな人ばかりですから」
「自分に合った勉強を活き活きとやれる場」には、親の理解も必要だ。
「私の頭の中には、学年と言う概念がありません。スラスラ問題を解いている、質問をしている、これが子どもの正常な状態です」。しかし、無学年式の教材に対して、下の学年の教材を解くことを恥に感じたり、上の教材を解くことに優越感を感じる親もいる。
「目の前でスラスラ解いていく子どもの姿に、“すごいな”と親が言えれば、その子どもは伸びていく子どもです。一方、“なんだお前、そんなの当たり前だよ、何年生の問題やってるんだよ”と親が言えば、その子どもは伸びない子どもです。まわりを説得することも私の仕事ですね」。
子どもは、いつまでも同じ教材をやり続けているわけではない。覚えれば、次の教材へ行こうとするのが自然な姿だ。「勉強嫌いな子なんていませんよ。嫌いにさせているのはまわりです。本来、子どもは学ぶことが好きなんです。つまり、子どもは自然だと言うこと。大人は一年間黙って、褒めるだけで良いのです」。
どの子にとっても必要なものを必要なだけ。ひとつずつマスターして、レベルが一歩一歩上がっていく。大人も子どもも関係なく、自分の能力を高めようと思ったら、繰り返し基本から教える。
「どんな目の子どもも、キラキラしてきます。学力不振の子は効果がわかりやすいですよ。自閉症の子も。もっともっと学べる子がたくさんいます。海外にも連れて行ってあげますよ」と湊さん。
これまで、どうすれば子どもを最高に伸ばすことができるかを全国各地で講演してきた。「子どもを活き活きさせよう。子どもへの声がけ、大人の声がけ、お母さんが見本ですよ。三つ子の魂100までです」。
ただ教材を渡すだけでは、「自分に合った勉強を活き活きとやれる場」は成立しない。無学年式の教材を使う際、親だけでなく子どもの意識に対しても、ひいておかなければならない前提がある。
子ども達は、放っておくと、学年相当の教材を選んでしまう。「プライドや楽なものへと流れていくのです。そこを打破するのが一番難しい。先生は、ただ教材を渡して放っていればよいわけではないのです」。
「ここはまだまだスラスラじゃないから、この問題をやりますと子ども自身が言えるかどうか。教材が合って、子ども達が活き活きしているかどうかです。小5が高校の教材、高校生が小5の教材。それを当たり前に認めるという場の前提をつくらなければ、1+1をやっている子が否定され、いじめの対象になってしまいます。そういう意識が働くと崩れてしまう場なのです」。
それぞれがその時点の能力に応じた教材を選び、基礎学力の定着を図る
ただ教材を渡すだけではない。「一言の持っていき方、指導の仕方はいくらでもあるんです。ない知識を入れてしまうと伸びない。ここにしか入れないと思うから入れない。これ以上伸びないと思うと、これ以上伸びないんです。親の言葉がけ、毎日会う先生の言葉がけなのですよ」。
具体的にはどのような言葉がけをすれば良いのか。「やる気につながるものなら何でもします。見えないところですが、下積み・しつけもしっかりします。でも嘘はつきません。勉強できない子に“なぜできないの?”とも言いません。子どもが悪いのではなく、教え方に問題があったのかもしれないし、1回で理解できない子どもなのかもしれない。だから、“この前よりわかった?”と聞きます。学力が低いのも、子どもじゃない。皆違うのが子どもなのです。10回必要な子どももいれば、一回で覚える子もいる。それでも、0点の子が60点とれるようになるんです」。
その子にとって必要なことを必要なだけ。「誰も差別と思っていません。ソーメックでは、5学年くらい違う勉強を、生徒は皆当たり前に認めています。それがうちの良さです。どの子も伸びていきます。反対に、子どもにできないところからはじめさせるから、いじめになるんです。学校の先生は気の毒ですよ。一斉授業で、カリキュラムが決まっていますから。横割りの授業は、子どもの差をつけることになります」。
中学校までは、能力別クラスはいらないと湊さんは考える。「その段階で能力別をやるのはいじめですよ。わからない子は、いたずらするしかなくなります。学校行かなくて良いよ、ソーメックに毎日おいで。どんな子でも救えるんです。でも統計、マニュアル、偏差値では、そこからはみ出た子を救えません。それではできないことを、個人別でやっています。個人別とは人間のパーソナリティーなのです」。
模試はあえて導入しない。
「偏差値で子どもを測ることは、自信の無さを子どもに植えつけるだけ」と湊さんは考える。「最初は低くてもいいじゃないですか。問題はどこをどのように伸ばすかであって、それは偏差値で測らなくともわかりますから」と湊さん。
どの子どもにも、きちんとした学力をつけていくべき年代がある。「その結果として高校生くらいになったら模試を受ける必要はあるでしょうが、それまで偏差値で子どもを評価しません。そこで決めちゃったら、子どもって、絶対伸びませんよ。どこでどの芽を出すかわからない。もちろん芽を出させなければならないですから。自信をつけてあげるのが、うちの塾。子どもをこうだと決めつけないで。そのためにうちがあるのよ」。
最初の偏差値を気にしないで欲しいと湊さんは言う。「偏差値低いから○○しようという発想を、小さい頃から思ったらどれだけ損か。テストですべてを測ってしまったのでは、子どものやる気や夢、何もないじゃないですか。やる気や夢でびっくりするくらい伸びる子もいるんですよ。小学校、幼稚園の段階で偏差値を出すのは怖いなあと思うのは私だけでしょうか。低学年でそういう気持ちを植えつけられた子ほど、親も子も伸びないんです。うちはみんな伸びますから、どの子も」。
自分の中の偏差値を大切にしてほしいと話す。「自分の今現在の学力を100とおいて、そこからどれだけ伸びたか。どれだけ基礎が伸びたら得したか、そういうものを大事にすれば伸びますから。では自分の中の偏差値を上げるための勉強って何ですか?うちに来てやってみてください」。湊さんは力強く話す。
ソーメックの看板には「世界を背負ってたつ人材を育てたい」という湊さんの願いが込められている。
ソーメックでは、学習塾である「個別学習院」の他に、外国人教師による英会話教室「グローバルランゲージサービス英会話」も開催。経験豊かなネイティブによる英会話レッスンをリーズナブルな月謝で学べるのが特徴。対象は2歳児から大人までと幅広い。海外研修や留学なども行っている。
「現在の国際問題は山積みです。世界が1つになって動く時代が来ています。もはや日本だけに留まりません。国際問題の討議やコミュニケーションは全て、国際共通語の英語で行われるのです。いくら能力が高くても、自ら英語で表現し、相手を説得する力がなければ、その能力が認められない時代なのです」
外国人講師による英会話教室の様子
様々な国の外国人講師がいるため、スピーキング・リスニング力だけでなく、国の文化の違いも肌身で感じることができる。「今の時代、どんな仕事に就いても、お互いスムーズに問題を解決するために、通訳なしで直接情報発信できる英語力が是非とも必要。子どものうちから使える英語力を身につけてほしい」と湊さんは話している。
教室に何時間いても良い、どの教室で勉強しても良い。幼児教育、英会話から来る子もいる。「学校教育は一斉教育。さらに学校と同じことをやる必要はないと思っています。自分に合った勉強をどこかで活き活きやれる場が子どもたちには必要なの。能力が高い子も、繰り返しが必要な子も、絶対に必要な場だと思う。全部の公立中でも取り入れるべき。個別の学力に合わせてやれば、日本の子どもたちの学力は、うんと変わると思う」と湊さんは言う。
「赤ペン持ったまま死ぬのが本望なのかしら」と微笑む湊さん
「まわりと同じことをやるのは楽です。ここではうちでしかやれないことを徹底的にやって、一生をささげていくのかな。ソーメックやっていて良かった、と卒業生が赤ちゃんや子どもを連れてきます。これが私の天職なのかなぁ、赤ペン持ったまま死ぬのが本望なのかしら」と笑う。
「自分に合った勉強を活き活きとやれる場」が成立する前提、それは偏差値や統計、マニュアルで子どもを序列化することなく、「自分に合った勉強」を子どもも親も認め合える場づくりだった。
文責:大草芳江