「今の子どもたちが勉強しない理由」を考える塾がある。
北山(仙台市青葉区)と八木山(仙台市太白区)に2教室を構える「明和塾」。塾長の高橋俊治さんは、子どもたちのある変化を肌身で感じてきた。
「最近は、問題が難しいという理由で勉強しない子どもはむしろ少数派。勉強のやり方がわからなくて『勉強ができない』か、それ以前に人間関係に悩んでいて『勉強をしない』のどちらかであるケースが増えている」と高橋塾長は指摘する。
原因が解決されないまま「勉強しろ」といくら怒鳴っても、成績は伸びない。明和塾は、「勉強ができない」と「勉強をしない」の違いを見極め、その原因を解決するための「対話」と「技術」を重視し、成績向上を目指している。
どうすれば今の子ども達が勉強するようになるのか。明和塾の「対話」と「技術」に迫った。
毎授業後実施されるミーティングでは、授業内容の報告だけでなく、生徒の気になる様子も報告される
「今度の授業はどういう流れでいくの?」「このクラスには、確認テストをフルに入れよう」「解答用紙には計算スペースがある方がいいよね」
深夜23時。明和塾恒例のミーティングがはじまった。毎授業後実施されるミーティングは、深夜1時にまで及ぶことも珍しくない。高橋塾長と小川貴史主任講師、そして学生講師らが、時折楽しそうに笑い声をあげながらも、対話形式で着々と授業内容の報告や組み立てを行っていく。
話し合うのは、授業内容だけでない。「いつもより笑顔が少ない」「めずらしく宿題をやってこなかった」。生徒の気になる様子など、勉強以外の内容が議題に上がる。
どの時期に何をすべきか。過去の実践例から指導ノウハウはある。しかし、生徒個々の現状により、これまでのやり方がそのまま通用しない場合もある。そこで、生徒の現状を把握するために明和塾で重視されるのが「対話」だ。
学生講師は生徒との年齢差が少ない分、生徒の本音や悩みを受け付ける窓口となる。授業後の全体ミーティングで生徒の様子や講師の実践例を共有し、「勉強をしない理由」・「勉強ができない原因」を探る。そして、生徒が勉強できる状態となるよう、「対話」を繰り返す。
講師歴3年の菊地尊也さん(東北大学工学部4年生)は、「対話」の重要性をこう話す。「生徒の心理状況や学校環境を知らずに、勉強して欲しい気持ちを一方的に押しつけても、結局はプラスにならない。対話によって生徒の現状を把握し、次回の対応へ反映させることが重要だ」。
学生講師らを取りまとめる小川主任講師は「明和塾では、生徒のモチベーションを高めることからはじめる。授業内容をそのまま伝えることは誰にでもできるが、それ以前に生徒が勉強できる状態にすることが重要だ。学生講師たちは、その点に多くのエネルギーを注いでくれている」と胸を張る。
通常授業以外にも、明和塾ではサマーキャンプや冬の勉強合宿などのイベントを主催。日頃の学習における講師と生徒の意思疎通をより高めるねらいもある。
「イベントでは勉強以外の面も見えるので、次回の生徒への対応へフィードバックがかかりますね」と話すのは、講師歴3年の内山裕清さん(東北大学工学部4年生)。「目標は、生徒の合格。けれども勉強以外の話もします。生徒と接する際は、自然体を心掛けています」
卒業生から贈呈された明和塾ロゴ入りのスリッパ
「対話」を重視する姿勢に、講師たちも共感する。中高生の頃、他県で学習塾に通った経験がある講師の小野良貴さん(東北大学工学部2年生)は、明和塾を「生徒一人ひとりの発言に耳を傾け、生徒の要望に柔軟に対応している点が、他塾とはちがう」と話している。
明和塾に通う保護者からは、「人格形成を見てくれている塾」と評される。「それに対して、“良し”と思ってくれるかどうかですね」と、小川主任講師は笑う。
「生徒とともに学び、生徒とともに成長する」。それが目標だ、とある講師が言った。
閑静な住宅街の一角にある八木山教室は、移転したばかりの真新しい教室だ
「先代の塾長から塾を受け継ぎ、数年が経過しますが、基本精神は変わりません。『生徒とともに学び、生徒とともに成長する』。そういう環境を提供できることに喜びと誇りを感じています」と高橋塾長は力強く話す。
講師歴3年の菊地さんは「小川先生や高橋先生からのアドバイスには、いつも気づかされることが多い。授業中の指導以外にも、授業準備や段取り、教室の掃除まで、自主的に動きたいなと思わせる何かがこの塾にはある」と話している。
講師歴3年の内山さん。担当する理科は、授業の指導だけでなく、授業の組立ても任されている。「経験を積めば、自分の裁量で授業を組み立てられる。その分責任があるが、やりがいを感じています」と話す。
先輩講師の後姿を見て、後輩講師が育つ土壌もある。講師歴1年の小野さんは、「熟練の講師なら、ある程度の権限をもらい授業の組立てを行える。先輩講師は生徒を真剣に勉強に向けさせる話がうまい。自分も早くそうなりたい」と話している。
本当の面倒見の良さを「ボランティア的な行動ができること」と言う高橋塾長。卒業後も生徒が訪れるのも、その姿勢を貫いた結果のひとつかもしれない。
明和塾では、「学校という場を離れてからもやりたいときに勉強できる『技術』を身につけてほしい」と、ノートや手帳の使い方から指導している。
「子どもたちの暗記力低下」の深刻性を肌身で感じる高橋塾長は、その原因のひとつに「自分で書く機会の減少」を考えている。
ここ最近、効率を優先した穴埋め形式のプリント学習が、塾だけでなく学校現場でも増えてきた。「穴埋め形式ばかりに慣れてしまうと、子どもたちの頭の中の勉強プロセスが心配だ。何のために何をやっているのかを考えずに問題を解く子が多くなった」。だから記憶が定着しない、と分析する高橋塾長。
明和塾オリジナルの「なんでもノート」。ノートを使いこなすための「技術」を伝えている
そこで明和塾では、プリント学習を改め、「ノートを使った授業」を復活させた。答えだけでなく、計算式から書かせる。生徒にノートをとらせると時間がかかるため、非効率的ではある。「けれども、単元を進めるだけが授業ではありません。初歩的な段階ですが、勉強をしている実感を持たせるためにも重要だと考えています」。
また最近、宿題をしない生徒が増えてきた、と話す高橋塾長。「“宿題をやらなければ怒られる、怖いからやる”という発想に、今の子どもたちはならない。むしろ“怖いからやらない”という発想になってしまう。怒るという手法は、今はダメですね」
そこではじめたのが、明和塾オリジナル手帳によるスケジュール管理の指導。生徒が宿題をしない原因を、「宿題に対する優先順位が下がっているため」と考えたためだ。
ビジネス書でも「時間管理」や「○○整理術」などのキーワードが目立つ。「一見、便利そうに見える方法が並んでいるのですが、裏を返せば、今の大人はこんなこともできないのか、と落胆してしまいます。どれも当たり前のことを表現しているのに過ぎないのです。だから、社会に出る前に、勉強を軸にしてこのような技術が当たり前のこととして認識できるような感覚を養って欲しいと願っています」。
他にも、21時40分から22時30分までの一コマ分を無料開放し指導する「居残り勉強」。主に試験前、希望者は授業開始前に勉強できる「早呼び勉強」。春・夏・冬の講習時の5教科要点暗記テスト「弾丸テスト」など。様々な方法を編み出し、「やりたいときに勉強できる『技術』」を指導している。
「こなしてきたプリントの量や、夜遅くまで残って勉強した体験が、最終的な自信に繋がるのではないでしょうか。学校という場を離れた後でも、自分で勉強できる力をつけてほしい」と高橋塾長は話している。
「『効率的に学力を高めたい』というニーズはもちろんありますし、塾としてそのニーズに対応しています。しかしながら、地道な努力をせずに、すぐに結果を求めるような短絡的な考えが多いことも事実ですね」。その現状に危機感を覚える、と高橋塾長は話す。
「最終的には、生徒が自発的に勉強することが目標」。例え同じ行動であっても、生徒の行動が自発的か外発的になるかは、講師の声がけ次第で決まる。
例えば、作文演習や講習会での読書。「公立入試に出るから」「国語力を高めるために」と喚起すれば、生徒たちは勉強するだろう。「けれどもそれでは、やらされているという自主性がないイメージですよね」。
高橋塾長は、あえてテストとは直結しない形で、作文演習や読書を生徒に提示するよう心掛る。「今まで興味を持っていなかったものにも目を向けれるように、と提示した作文や読書が、結果として国語力が高まったことに気づけばよいのです」。
明和塾の歴史の始まりでもある北山教室の前に立つ高橋塾長
教育とは、効率よく「知識」を与えるだけではないはず。「様々な人間との『対話』の中で学び、大人が身につけている『技術』を受け継ぐ。当たり前のようなことですが、このような『学習の原点』というべきものが薄れつつあるように感じてなりません」。
「成長著しい時期に明和塾で過ごした子どもたちには、社会に出てからも学習を続け、そして、次世代を担う子どもたちを教育できる大人になってほしい、と切に願います」と話す高橋塾長。
「対話」で子ども達と向き合い、自主性を重んじながら、「技術」を伝承していく。生徒とともに学び、生徒とともに成長する土壌が、明和塾には受け継がれていた。
文責:大草芳江
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