「やるべきこと」に自ら気づかせる仕掛けをつくり、成績向上を目指す個別指導塾がある。
2004年10月泉中央(仙台市泉区)に開校し、仙台市内に2教室を構える早稲田育英ゼミナール。「塾なのに家庭教師」をキャッチフレーズに、学習塾と家庭教師、双方のメリットを活かした指導が特徴だ。
ある生徒の新みやぎ模試の偏差値の推移。偏差値41から偏差値50台に
ある生徒は22点だった数学が、入塾後4ヶ月で90点に。入塾後6ヶ月で偏差値30台から50台まで上げた中3生もいる。
保護者の費用負担を抑えつつ、学習塾と家庭教師双方のメリットを活かしながら、成績向上を目指す早稲田育英ゼミナールの取組みに迫った。
「成績向上の方法は、同じ内容を繰り返しやる、というやり方だけ。特に最初の偏差値が低いほど、反復練習が必要です」と話すのは、早稲田育英ゼミナール東北支部責任者の最上さん。
「1回で覚えられるものはなかなかありません。例えば、誰かの電話番号は、すぐに忘れてしまいますが、自宅や自分の携帯電話の番号なら覚えていられますね。繰り返せば頭の中に残ります。使わなければ時間と共に忘れてしまうのです。勉強も同じですね」と話す。
しかしながら、自学自習の習慣がなければ、自主的な反復練習は難しい。そうかといって学習塾にかけられる費用は限られている。個別指導と言うと、費用面から敬遠する方も少なくはないだろう。
そこで早稲田育英ゼミナールでは、無料の個別指導サービスや、毎週土曜日の定着度確認テストで、確実な反復練習をサポートしている。
冒頭の30台から50台まで偏差値上げた中3生は、週2回の受講。しかし実際は週4回、通塾していた。
「英語と数学の通常授業に加えて、英語の無料個別指導サービス1回で計週3回の通塾です。土曜日には無料確認テストも実施しています。つまり、週2回分の料金で、週4回来てもらいました」
補習が必要な生徒のために、授業の組み方にあえて余裕を持たせ、フォローするしくみだ。「そのため、教室あたりの生徒数は30名限定。それ以上生徒を受け入れると、無料補習ができないためです」
毎週土曜日の「定着度確認テスト」では、その週に勉強した科目・単元の実力が定着しているかを確認。受講者は特別な理由がない限り、全員参加。日程が合わなければ別の日に実施する。他にも自主学習の機会を提供している。
1対2個別形式での授業の様子。友人のいる程よい緊張感の中で指導を受ける
また、小中学生なら1対1より1対2がお勧め、と最上さんは言う。「費用対効果で考えると、1対1も1対2も変わりません。指導内容が高度になる高校生になれば、1対1で指導する必要性も出てきます。しかし小中学生なら、月謝をリーズナブルにするため、1対1より1対2をお勧めします」
保護者の費用負担を抑えつつ、反復練習をサポート。学習塾のメリットを活かしたしくみだ。「週1回では記憶に残りません。ここでは通常授業以外にも、補習日や土曜日に通塾できるので、頭に入るまで反復できます。それが家庭教師との違いですね。塾の形態なので、何回も塾に来て繰り返しできます。底から引き上げることは難しいですが、ある程度まで行けば、ぐっと伸びますよ」
「勉強のやり方は、自分で見つけていくしかないですね。10人いれば10通りのやり方があります。自分で勉強できるようになるために、それぞれの生徒に合った勉強のやり方を、生徒自身が気づくように応援していくのが基本姿勢です」と最上さん。
例えば指導方法としても、すぐに答えは教えない。「ヒントを出しながら、なるべく生徒が自分で答えを出せるように指導します。色々な生徒さんがいますから、それぞれに合わせて生徒さん自身が気づくように心掛けています。その手助けを先生方がやってあげるということですね」
生徒一人ひとりに合わせた先生手づくりの教育
生徒一人ひとりの学習状況や個性に合わせ、必要なものを講師が手づくり。「教科毎に、勉強の方法やノート作りの手順など、生徒に合わせて、先生がいろんなものをつくってあげます。定期テスト目標シートで目標設定、振り返りシートで繰り返しの定着、サイクル表で生活習慣の設定など、先生手づくりの教育ですね」
現時点で学力が不足している生徒には、個別指導のシステムが最適だと最上さんは言う。「一斉指導では、たとえ5教科週3回受講しても、学力が合わなければ、受身のお客さん状態になってしまいます。受身の状態では、自分に合った勉強法で勉強できません」
はじめは家で勉強ができなくとも、少しずつ自分に合った勉強のやり方がわかってくる。「すると家庭でもできるようになってきます。できるようになると、やる気が出てきます。その気持ちが成績アップへとつながっていくのです。テストで良い点数をとってもらい、自信を持ってもらいます」
家庭教師のメリットを活かし、一人ひとりの学習状況や個性に合った最適な勉強方法に生徒自ら気づかせることで、生徒の自立学習を目指している。
成績を上げるための指導は、生活習慣へのアドバイスにまで及ぶ。
「やる気を出させるためには、目標設定が必要です。偏差値や内申点があと何点必要なのか、そのためにはどうすればいいのかを生徒に気づかせます。つまり、勉強しなさいと言うだけではなくて、なぜ勉強しなければならないのかを伝えます」と最上さん。
短期目標は一週間の勉強時間、中期目標は中間・期末考査での目標設定、長期目標は入試までの偏差値の目標設定、そのプロセスを生徒と講師が一緒に考えていく。
通知表結果を点数化し、模試での偏差値と照らし合わせながら、志望校合格までに必要な目標偏差値を設定する。生徒の学力や性格などに合わせ、勉強プランを立て、個別にサポートする。
宮城県の公立高校一般入試は、中1から中3までの内申点と学力検査(5教科500点満点)の総点で、合格者を判定する方式を採用している。「当日の入試得点が高くても内申点が低ければ、不合格になることがあります。そのため内申点は重要になります」
「志望校合格のためには、学校での内申点と、実力として偏差値を上げなければいけません。ならば生活面も併せて、指導する先生が必要です。一斉指導では個々に相談に乗ることができませんが、1対2なら家庭教師と同じようにコミュニケーションを取れます。成績を上げるための、様々なアドバイスができるのです」
生徒と講師の間には、例えばこんなやり取りが交わされる。「英語の時間数を何時間にしないと、偏差値を目標に持っていくのは難しいよ。週に5時間やらないと駄目でしょう。何曜日と何曜日は塾に来て、あとは英語は家でやれば良いね。2年生になったら15時間、中総体終わった3年生なら20時間、一週間に最低勉強しないと駄目だよ」
長期的な目標も、生活習慣が基盤となる。早稲田育英ゼミナールでは、勉強時間を確保する方法から指導している。
「勉強時間を決めるための週間生活チェックシート」。
「勉強時間を決めるための週間生活チェックシート」。まず「絶対に勉強机に向かえない時間」をピックアップする。残った自由時間から、1年生は10時間、2年生は15時間、3年生は20時間を目安に、一週間の目標勉強時間を決めていく。
「これができるようになると、勉強のリズムが出てきます。先生がアドバイスしながら、一週間の勉強時間を決め、勉強プランを立て、個別にサポートしてくれます。生徒の良いところを見つけ認めながら引っ張っていく先生がいなければ、生徒はだらけてしまいます。生徒のレベルは幅広いので、一斉指導で一人の先生が見ていくには、限度があるでしょう。褒めたり、たまには叱ったりしてくれる先生が必要です。つまり先生達は、生徒一人ひとりの応援団ですね」
内申点を上げるための指導も行う。
「手を挙げる」「発言をする」「説明を聞く」「私語をしない」「提出物は出す」など学校の授業態度から、「朝食を食べる」「朝、排泄をする」、「23時までに寝る」、「テレビは2時間以内」、「家事は手伝う」などの家庭での生活習慣まで、「成績を上げるための生活チェックシート」には、ずらりとチェック項目が並ぶ。
「生活習慣を変えるのは簡単ではありませんが、やらなければ自分へ返ってきます。最終的に困るのは自分。決めるのも自分。後悔するなら今からやった方がいい。応援団はいっぱいいますので、いろいろなアドバイスができますよ」と最上さんは話す。
個別指導の場合、5教科すべて受講している生徒は少数派。そこで受験に向け、受講科目以外の教科を強化しようと、中3生10月からは、「5教科特訓」として一斉指導の長所も取り得れる。
中3夏期講習終了後、10月から2月までの5ヶ月間は、日曜日に「5教科特訓」が開講される。月額にプラス一万円で、10時から16時までの約6時間、5教科のテストを実施し、学力定着度を確認する。
「受講科目以外の教科をフォローするために、個別指導の良さと一斉指導の良さを取り入れていきます。受験は5教科ありますから、理科・社会・国語のフォローと、もちろん英語・数学も。生徒は受験モードになりますね」。
設置した目標達成までのプロセスを可視化することで成績を上げる方法は、生徒だけでなく、講師の能力を引き出すしくみとしても活用されている。
年に1回、生徒が講師の評価をする「授業チェック表」
「教え方としてはすぐに答えを教えるのではなく、ヒントを出しながらなるべく自分で答えを出せるように指導してくれる」、「宿題として、自分で解けそうな問題や次回まで覚えるべき課題を出してくれる」、「宿題のチェックを毎回してくれ、チェック後いろいろアドバイスをしてくれる」、「自分の為の自分に合わせた問題をよくつくってくれる」―
年に1回、生徒が講師の評価をする「授業チェック表」の評価内容の一部だ。評価は全部で12項目、ABCの3段階評価。「先生自身も生徒にチェックしてもらうことで、先生もA評価を取れるように、頑張っています」。反対に評価が悪ければ、講師は交代される。
生徒が講師を評価するしくみにより、講師に対する評価基準も可視化されている。「生徒と生徒とのコミュニケーションツールです。先生自身も、授業チェック表に基づいて、よりよい授業を目指して『やるべきこと』に自ら気づくことができます」。
講師の力を引き出すことで、生徒を伸ばす。「先生たちが働いた時間は平等なので、働いた時間を如何に有意義にしていけるかが勝負ですね。先生たちも、生徒たちと一緒になって成長していきます。私は、忍耐強く見守るしかありません。私が口出しをしてしまえば、先生も成長しなくなるし、生徒も成長しなくなりますから」と最上さんは話す。
「指示したほうが良いのか、生徒の自主性に任せたほうが良いのか、その見極めが難しいのです。あまり言い過ぎてしまうと、先生や生徒も萎縮してしまいます。今は伸び伸びとやってもらっていて、逆に先生たちからたくさん意見を頂いているので助かりますよ。先生が全部やってくれるんですね。私自身も、出ちゃうとつい夢中になっちゃうから、先生との責任を明確に分けてね」と微笑む。
早稲田育英ゼミナールの家庭教師と塾、双方のメリットを活かした指導とは、反復練習を促進する環境づくりと、設置した目標達成までのプロセスを可視化することで、「やるべきこと」に生徒自ら気づかせる仕掛けづくりだった。
文責:大草芳江